安藤 俊明:

学習指導案の設計・共有支援を目的としたSNS開発 

 
 初等中等教育現場における学校教員(以下,教員と呼ぶ)は,教材研究を行うための時間を確保することが困難であり,授業に向けてあらかじめ準備した指導内容を記述した学習指導案(以下,指導案と呼ぶ)を設計・活用することにも様々な課題を抱えている.さらに,学校という比較的閉じた環境内において解決方法を導き出せずにいるという現状がある.それとは対称的に,近年ではパブリックドメインの名のもとに学校における授業内容の記録や公開がコンピュータネットワークの整備とともに世界各国で広まりつつある.例えば,近年アメリカの大学に端を発して,自らの教育活動評価のためにティーチング・ポートフォリオと呼ばれる一種の授業記録が利用されている.現在ではこれを自分の授業改善のための資料として活用する動きも見られる.しかし,こういったオープン化の流れは国内の初等中等教育の分野にはまだ普及しておらず,現役の教員を対象とした指導案の設計を支援する先行研究は数少ない.
 これらの問題は,通常業務の多忙さをはじめとしていくつかの要因に起因すると思われる.そこで本研究では,教育を取り巻く環境をオープンにするという流れを考慮しつつ,まず教員の仕事の特性を調査し,指導案設計時の問題点について考察する.さらに,指導案の新たな価値を見出すために,指導法や教材を共有する方法について議論する.特に,SNS(Social Networking Service)をプラットフォームとすることで,従来教員コミュニティの共有財として使用される機会が少なかった指導案を再活用する場を提供することを目指す.
 本稿では学校教育現場において活躍している現職の教員を対象として,校種や学校間の枠を超えて,指導案・情報交換・蓄積できる場をWeb空間上に構築する.そのためにまず,教育現場において教員が本SNSを利用するメリットを分かりやすくする役割を果たすペルソナを活用し,本サービスを利用するであろう教員像を仮想的に想定する.そこから浮かび上がる利用ニーズに基づいて指導案を教員コミュニティの共有財として活用するためのプラットフォームを,SNSを利用したアプローチで提案する.さらに,教員が必要とするニーズの他に指導案を中心として教員の教材研究活動を促進する機能を実現することにより,これまで活用される機会が少なかった指導案の位置づけを見直し,教員間での共有材とすることで教育の質を高めることを目指す.システムの構築にあたっては,ユーザに特殊な利用環境を必要とするものを避け ,極力一般的な環境から容易にアクセスできることを意識して設計した.システムの有効性を評価するため,現職教員にシステムを利用した指導案の設計を依頼した.その結果,提案システムを利用することで指導案設計に要する時間が短縮できることに加え,コミュニティ機能を使ってユーザ間で情報のやり取りをすることで指導案の質向上に役立つことが示唆された.